Textile Story

2026年7月|ジャワ更紗に描かれるインド・パトラ

2026.07.01

Nitik(ニティック) ― パトラへの憧れ

 インドネシアのバティックには、遠い海を越えて運ばれてきた布への憧れが写し取られています。そのひとつが、インドでマハラジャや身分の高い人々にのみ着用が許された最高級の絹絣「パトラ」(経緯絣)です。インドネシアでは、このような舶来の布を「チンデ(Cinde)」と呼び、王族や富裕層の間で珍重してきました。その美しい織文様は、やがてろうけつ染めによるバティックの意匠にも取り入れられていきます。

 インドネシアの人々は、インド・パトラの織物をバティックで表現しようと試みました。そして、その美しい織文様を見事に染めで再現することに成功します。パトラ特有の織文様を染めによって表現したものが、「ニティック(Nitik・疑似絣文様)」と呼ばれています。ニティックでは、織物のような表情を生み出すために、銅製のスタンプを用いて連続して蝋を置き、その後に染色を施します。こうして生み出された、まるでパトラの織物のようにも見える華やかな布は、現在でもジャワ王族の正装や宮廷舞踊の衣装として用いられ、その美しい姿を見ることができます。

 興味深いことに、古くからパトラを特に珍重した地域として、インドネシアと日本を挙げる研究者もいます。同じアジアの海に面した国々が、遠くインドからもたらされた布に特別な価値を見出していたことは、当時の交易や文化交流のあり方を考えるうえでも大変興味深いテーマです。

 私自身もニティックが好きで、さまざまな色彩による制作を試みてきました。文様の一部にはスタンプを用いますが、小さな点で構成される部分は、一つひとつの蝋をできるだけ四角く置き、織物のような表情が生まれるよう工夫しながら、何度も染めを重ねていきます。大変手間のかかる仕事ですが、完成した布が織物のような豊かな表情を見せてくれる瞬間には、不思議な魅力を感じます。

 ニティックの布をご購入くださったお客様のなかには、帯に仕立てて楽しまれる方も多くいらっしゃいます。掲載した写真は、ある展示会でご来場くださったお客様が、お仕立てになった帯を見せてくださった際のものです。

 今月ご紹介する篠原君子氏の屏風作品にも、このニティックのジャワ更紗が用いられています。インドの織物への憧れから生まれた文様が、時代と海を越え、日本の室礼の世界へと受け継がれていることに、深い感慨を覚えます。

文・古賀るみこ (RMKK+管理人) 
※今回紹介したニティックはじめの生地の販売のお知らせが文末にあります。

※画像をクリックすると詳細が表示されます

次回2026年8月予定
『海の道』伝え合った文化
Sea Routes of Textile Exchang

■染色サンプルカット販売のお知らせ■  
記事でご紹介した「ニティック」をはじめ、白生地反物に染めたジャワ更紗のサンプルを、2026年7月15日午前9時よりにて販売開始します。これまでにアクセサリーミュージアムで展示をしたほか、百貨店出店の際にご好評いただき、創作帯や、料理店の暖簾などにも用いられる高品質の染布です。この機会にぜひご覧ください。
RMKK+ (RMKK+BASE)

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