Textile Story

かぶせる布―守る、隠す、そして現す|2026年10月

2026.10.01

 9月のTextile Storyでは、「包む布」を取り上げました。大切なものを包み、持ち運び、ときには贈る。布は、人の手のなかで、ものと心を包んできました。

 物の上に、そっと布をかぶせる。それでは、布を「かぶせる」とき、そこにはどのような意味が生まれるのでしょう。埃や光からものを守るため。見せたくないものを隠すため。そして、ときには、かぶせることによって、その場やものの意味を表すため。

 一枚の布は、ただ覆うだけではありません。守り、隠しながら、その下にあるものの存在を、かえって強く意識させることがあります。

 急な来客があり、広げていた衣装ケースの上に、慌てて布をかけたことがあります。すると、友人と一緒に来た男の子が、その布の下が気になるのか、そっとめくいて中を覗いていました。その気持ちは、私にもよくわかります。

 何もかけられていなければ気にも留めなかったはずなのに、布で覆われた途端、その下に何があるのか知りたくなる。布はものを隠す一方で、そこに「何かがある」ことを、かえって強く意識させるのです。

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その子に、テーブルの上に置かれた籠を指して「その籠の中のお菓子をどうぞ」と声を掛けると、嬉しそうに布をめくってお菓子を選んでいました。布の下をのぞく、その時の表情は忘れられません。

 あるパーティのときには、取り分けやすいよう、大きなお盆に料理を載せた小皿をいくつも並べます。乾かないようにラップをかけ、その上から、そっと一枚の布をかぶせておきます。

 やがて人が集まり、布を取り払うと、「わぁっ」と小さな歓声が上がります。料理は初めからそこにあったのに、布で隠されていたことで、現れる瞬間がひとつの演出になるのです。

 布は、ただ見えなくするだけではありません。隠すことで期待を生み、取り払われた瞬間、その下にあるものを、いっそう鮮やかに見せることがあります。

 二十五年ほど前、ソウル市内のギャラリーで、生命樹を思わせる樹木文様が刺繍された一枚の布を買いました。店の人に「何に使うのですか」と尋ねると、店内にあった陶器にかぶせたり、布の上に茶器を置いたり、封筒をくるんだり、壁に飾るしぐさをしたり、身振り手振りでいくつもの使い方を見せてくれました。

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 あまりにも見事な刺繍だったので、思わず「そんな使い方をするのは、もったいない!」と一生懸命に伝えましたが、店の人は、「そう言われても……」とでもいうような表情をしました。言葉は通じませんでしたが、そのときのことを今でもよく覚えています。結局、私はその布を使うことなく、大切にしまってきました。

 そんなことを思い出していた折、義姉から、義姉の友人が描いた、女の子が描かれた手提げと一枚の布をいただきました。

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 「この布は、かぶせるのに使って」といわれ、まずは本棚の目隠しとして掛けてみました。けれど、隠してしまうのはもったいないと思い、今度は、風呂場へ続く引き戸の脇の壁に飾りました。引き戸を閉めると布が現れる。遊びに来る子たちは気づいてくれるでしょうか。「

 こうして考えてみると、「かぶせる」ことは、必ずしも隠すことだけを意味するのではありません。美しい布をかぶせることで、その下にあるものを守り、そこに何か大切なものがあることを示し、さらに、その場の表情を楽しく彩ることもできます。

 布は、包むことも、かぶせることも、飾ることもできる。使い方に決まりはなく、人の手と発想によって、その表情をいくつにも変えていきます。

 布は自由で、楽しい。

そんな思いから、私は2003年頃、「暮らしのなかの布」を意味する「暮布図(クラフト)」という企画を立ち上げ、さまざまな催しを重ねてきました。

守る、隠す、そして表す。

一枚の布を、さて、今日は何に使いましょうか。

古賀るみこ(文・RMKK₊管理人)

【次回予告】
ラオ・テキスタイル|2026年11月

【Textile Story・過去記事】
包む布|2026年9月 | RMKK+
海の道|2026年8月 | RMKK+
ジャワ更紗に描かれるインド・パトラ|2026年7月 | RMKK+
生命樹vol.1|2026年6月 | RMKK+

 

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